16Sep
・水島クリニック:水嶋丈雄
認知症予防と改善には、現在ドネぺジルが認知症に適応があるが、アルツアルツハイマー症のみの効果なので、長野県中信地方にて昔から認知症に効果があるとされていたヤマブシ茸と北里大などの研究でChAT活性化効果があるとされる加味温胆湯を認知症患者に投与し、その効果を2年にわたり追跡調査をしたので報告する。2回目の今回は、ヤマブシ茸についての報告。
1.方法
(①を参照願います。)
2.加味温胆湯の結果
(①を参照願います。)
3.ヤマブシ茸
長野県中信地方に古くから伝えられる、物忘れに有用とされるきのこである。ホクト株式会社の研究員である稲富聡らが信州大学での共同研究にて、ヒトアルトロサイトーマにヤマブシ茸抽出物を添加し、培養実験をしたところNGF(Nervegrowth factor:神経成長因子)の分泌物増加が認められ、またマウスにおいてグリア細胞の神経突起伸長作用と海馬におけるNGFmRNA遺伝子発現量の増加を認めた。またヤマブシ茸成分のヘリセノンBは血小板凝集抑制作用があることが実験的に証明されている。このホクト株式会社製のヤマブシ茸粉末錠9錠/日を加味温胆湯の証に合わない症例に投与した。
症例 ヤマブシ茸群
82歳女性、身長142cm、体重46kg
既往歴:2008年4月、歩いていてよく転ぶとの訴えで受診。
所見:目症状、左右差なし。脳神経症状なし、腰椎やや後弯、圧痛なし。深部健反射正常。病的反射なし。下肢筋力正常。胸部聴診正常。心濁音界やや拡大。心音正常。肺音正常。腹部軟。肝臓脾臓触知なし。グル音やや亢進。胸レントゲン、肺野うっ血なし。CTR55%、血圧150/80。左右差なし、頭CT、後頭葉に石灰化。多発性脳梗塞(図1)、MMSE20点、血液生化学検査、白血球6400/μl、Hb10.9g/μl、血小板32.2×10/μl、AST14U/l、ALT11U/l、コレステロール185ng/dl、HDL75ng/dl、BUN11.1ng/dl、クレアチニン0.47ng/dl、Na144mRq/1K、3.8mEq/lにて異常を認めず。
東洋医学的には舌診乾燥、脈診細、尺無力、東洋医学的証は肝腎陰虚と考えられ、加味温胆湯の証ではないと判断した。
初診時顔面は反面様で笑顔なく、問いかけにも5回中ようやく1回答える程度。短期記憶障害あるが昔のことはよく覚えている様子。以上より血管性認知症と考え、ホクト株式会社のヤマブシ茸粉末錠9T/日を投与した。
経過:3ヶ月後、何かしら良い感じがすると応答がよくなってきた。MMSE22点、6ヶ月後、昨夜の夕食が言える。100-7、93-7の計算ができるなど短期記憶が良くなってきて日常生活に支障がなくなった。笑顔が出るようになった。MMSE24点、12ヶ月後、変わらずによい経過が続きMMSE24点、24ヶ月後、家人曰く、元のお母さんに戻ったと笑顔が見られる。短期記憶は良好MMSE28点になり、継続している。
4.結果
ドネペジルの投与群では投与前MMSE平均20.8±2.8が12ヶ月後に22.0±3.6に、24ヶ月後は17.2±2.6になった。12ヶ月後・24ヶ月後ともに統計学的には有意差を認めなかった。
(12ヶ月後p=0.17、24ヶ月後p=0.52、wilcoxon符号検定)暴力的になったり、介護に抵抗的になったりという陽性反応で脱落例が3例あった。(図1)
加味温胆湯投与群は投与前18.7±2.6が12ヶ月後には25.2±3.8、24ヶ月後には25.2±4.0になった。12ヶ月後p=0.02、24ヶ月後p=0.02にて有意差を認めた(wilcoxon符号検定)。30点満点になった血管性認知症の症例であった。(図2)。
ヤマブシ茸投与群は投与前19.2±5.0が12ヶ月後に21.4±2.5に、24ヶ月後では22.7±3.8となった。12ヶ月後でp=0.01、24ヶ月後で有意差を認めた(wilcoxon符号検定)。効果の乏しい3症例はアルツハイマー認知症2例、レビー小体1例であった(図3)。
加味温胆湯群とヤマブシ茸群ではどちらも脱落例は認めなかった。3群においてそれぞれの2群間符号検定では有意差(p>0.999)を認めなかった(図4)。
5.考察
ドネペジルはアルツハイマー型認知症に適応があり、投与後12ヶ月に効果のピークを認めるが、それ以降は漸減傾向が認められ、また陽性反応が3例あった。しかし、中止症例ではさらに認知症の進行が認められた。12ヶ月後の抗認知症効果に有意差が認められなかったのは、今回の症例の投与前のMMSEが軽度群であったためと考えられる。また血管性認知症に対するヤマブシ茸やレビー小体性認知症に対する加味温胆湯は投与後24ヶ月後にても効果の漸減傾向は認められず、その認知症予防効果はドネペジル5mg/日と同等であった。アルツハイマー型認知症にはドネペジル、血管性認知症にはその抗血小板効果とグリア細胞作用にてヤマブシ茸が、レビー小体性認知症には脳内ChAT活性の増加とその抗アミロイド沈着抑制効果にて、加味温胆湯の投与が推奨されることが示唆された。
結語
本研究ではアルツハイマー型認知症以外の認知症に対する治療薬を研究するのが目的だった。
漢方薬では加味温胆湯がレビー小体性認知症に有用な効果を示したが、この効果はあくまでも漢方的「証」に合致した場合であり、すべからくレビー小体性認知症に加味温胆湯が有効なわけではない。ヤマブシ茸はその薬理研究がすすんでおり、抗血小板効果と脳内グリア細胞作用に対して脳血管性認知症には有用であると考えられる。しかし、今回の症例は3群とも軽度から中等度の認知症であった。重度の認知症に対し、さらに新しい認知症予防薬やドネペジル10mgとの併用にて、どのような効果が得られるか、今後の研究課題としていきたい。
関連記事
コメント
この記事へのトラックバックはありません。
この記事へのコメントはありません。